クラウドの時代にリニアモーターカーが運ぶべきものは何か

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子供の頃に読んだ科学雑誌。そこに載っていたリニアモーターカーの特集に心を踊らせていたのは、もう30年も前の事です。超伝導の磁力により浮上する車体が、時速500キロを超えるスピード疾走する姿は正に夢の乗り物でした。

まだかまだかと待ち続けるなか、中国や韓国では商用利用が始まり「あぁ日本では本当に夢の乗り物だったんだなぁ」と半分諦めていた所で、JR東海が具体的な整備計画を発表しました。それも、もう数年前のニュースです。※1

その後、長野を通る通らないでルート選定に揉めていたようですが、これも片付きました。東京~名古屋間で工事の着工が行われることが決まり、2027年度には営業運転開始が予定されています。

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実現すれば面白いとは思うのですが、新幹線で充分に行ける場所へ、たかが数十分の移動時間を縮めるためにリニアモーターカーを使うような場面が、これから先の時代にあるのか?と疑問を感じるのです。

たとえば帰省ラッシュのお盆や正月、またGWのような大型連休を除いた平日の新幹線の利用目的を調べると、約40%が仕事目的での利用です。

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新幹線に関する調査。九州新幹線を「利用したい!」は83%

この仕事での新幹線利用は、ひとが荷物を運ぶというものではなく、会議などの打合せや交渉などが主な目的でしょう。

いわば、その移動する人自身が情報伝達の媒体となっているわけです。しかし、これからさらに発達する情報化社会、人が情報伝達の媒体となるために移動を強いられる場面はどんどん少なくなって行くと思うのです。

具体的な例を挙げて説明します。
コミュニケーションは、Face to Faceが基本。これは今後も変わらないでしょう。同じテーブルを囲むことにより伝わる情報伝達量は、電話やメールでのそれとは比べ物になりません。
しかし、ツールの活用次第ではそのハードルを限りなく低くすることが可能となります。

私が設計の仕事を外部委託している会社とのミーティング。Skypeを使った電話会議ですが、そこで使っているのはCrossLoopというサービスです。何かと言うと、お互いのデスクトップ画面を共有し、自分が見ている画面を相手に見せる事が出来るサービスです。お互いのマウスのカーソルを同時に動かすこともできますので、自分が相手に見て欲しい場所を指し示すことも可能です。

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電話だけだと、そこでつまずいてしまいます。「そうそう、二枚目の図面の左上に○○って表示されてますよね、その上にある数字が計算書と違うのですが。。」というやりとりをするのは不毛であり、お互い苦痛でしかありません。
このCrossLoopを使う事によって、これまでの電話会議で当たり前だったそのひと手間を省けるのです。

これは実際に使ってみないとその効果が実感出来ないのですが、自分と相手との心理的距離感をほぼゼロにしてくれます。相手の顔を直接見ることは出来ませんが、Face to Faceの感覚に近い環境を作れます。

実際、これを使うことで、協力会社の方に来社して貰うことが一切無くなりました。
この具体的な体験と成果のため、会議などの打合せに、わざわざ人が移動する事の必要性に疑問が湧いたのです。

もちろん、1対1ではない場合にはハードルが高くなると思います。しかし、これから10年の技術の進歩はそのハードルさえ超えて行くでしょう。もしかすると、技術的には既に確立されており、あとはそれを使うユーザーの意識の問題だけなのかもしれません。

もし、そのような時代。人が情報伝達の手段で移動する必要性が限りなく少なくなる時代が現実になったとしたら、リニアモーターのような高速鉄道の位置づけはどうなるのでしょう。
旅行としては、その大部分、7割以上がトンネルになるリニアモーターカーは、利用者にまた乗りたいと思うような感動を与えるのは難しいでしょう。

4兆円以上の投資をして、ほんの少しの移動時間を削る事にどれだけの意味があるのか。スペックの数字を上げることを優先させ、ユーザーの体験を無視してきた日本企業の悪い癖をここでも見ているようです。

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Life is beautiful: もし日本のメーカーが iPhone を発売していたら..

このような視点でリニアモーターの計画を再考すると、これから早く運ぶ必要があるのは人ではなく、物理的な荷物でしょう。

例えば、計画されているリニアモーターの路線を完全に物流専用に変更にするのはどうでしょう。
人を乗せる必要がなければ、設計上の安全率も低くでき、工事費の低減も可能です。通常の列車と比べ、走行音も小さいので、ある程度スピードを落とせば夜間の運行も可能でしょう。そうすれは余剰となっている夜間電力の有効活用にもなり、比較的安価な物流が可能となるかもしれません。

九州から北海道を結ぶ日本の動脈として24時間、時速500キロで運行するベルトコンベアのような物流の幹線。
朝、北海道で収穫された農作物がその日のうちに九州に届く。またその逆が可能となり、南北四千キロの距離がぐっと近くなる。もし数十年後にでも実現すれば、日本の産業構造と都市構造が大きく変わると思うのです。夢のような物語ですが実現したら面白いと思いませんか。

まずは、会社に行かずとも仕事が回る仕組みを作りたいと思います。

※1 日本でも愛知万博の際に建設された路線が、愛知高速交通東部丘陵線として商用利用(路線延長8.9km 最高速度100km)されています。

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“クラウドの時代にリニアモーターカーが運ぶべきものは何か” への2件の返信

  1. 東京-大阪間で対のぞみで約1時間30分、対ひかりで約2時間短縮されるわけですから(九州まで延長されたときはさらにでしょう)、決して『たかが数十分の移動時間を縮めるため』ではないと思いますよ。
    往復で3〜4時間もの時間を短縮できるのですから。
    往復2時間で行けるなら
    『面倒だから直接行ってこい!』という場面が増えそうな気もします。

  2. Kawachan さん

    たしかにぱっと二時間で往復できるなら、エイッと飛び乗るかもしれませんね。
    九州までの遠距離なら、飛行機を使えばいいじゃないかと思っていましたが、駅までのアクセス、使いやすさから考えると鉄道の方が便利でしょうし。

    折角の九州出張で日帰りになるのも悲しいですがw

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