iPhoneアプリの「セカイカメラ」がアップルストアに公式リリースされたのは、たしか2009年の夏だったと思います。目 の前の空間にエアタグを置き、セカイカメラをインストールしているiPhoneユーザーがモニターを通し、肉眼では見えないが「そこにある」情報の共有を 行うことの目新しさにちょっとワクワクしたことを覚えています。
その当時は所有しているiPhoneが電子コンパス機能を搭載していない3Gでしたので、使い勝手の悪さからそのまま放置、数カ月後にはiPhoneからもアンインストールされてしまいました。
話はちょと変わりますが、私の本業は建設コンサルタントと いう業界で働く技術者です。毎日PCの前に座り、CADで図面を書いたり、計算書を作成したり、報告書を書いたりしています。
設計の内容は、首都圏で例を挙げるなら「多摩ニュータウン」「千葉ニュータウン」「八王子ニュータウン」などなど、最近はめっきり少なくなりましたが、山を 切り、谷を埋め、道路を作り、下水管、上水道、電気施設などのインフラを整備し、新しい街をゼロから作る仕事。その設計分野を担当しています。
も う少し話を続けます。
入社当時はドラフターの上で鉛筆と三角定規を使って図面を書いていましたが、今では全てパソコン上での作業となりま した。しかし、使用するツールは変わったものの、書いている図面の内容はその頃と殆ど変わっていないのです。ただ紙と鉛筆がCADソフトに置き換わっただけ。
先日、30年程前に作られた設計図を調べる機会があったのですが、書いている内容が今と全く同じだったのは本当に驚 きました。そんな事があった日の夜、僕らの業界で作成する設計図はこの先ずっと変わらないのか、変える必要が無いのかぼんやりと考えてたんですね。
機械設計の分野では、3Dで設計した図面を直接構造計算にかけ、旋盤での加工まで行うような技術が確立されていると聞いています。土木分野でも建築、橋梁などについては3Dで設計した図面が、現場での施工計画などに生かされています。そんな流れの中で、何故我々の分野だけが旧態依然とした図面の作り方をしているのだろうか?そんな素朴な疑問について考えたのです。
そもそも「図面」とは何かを再定義すると「設計者の設計思想を誤りなく施工現場に伝え、施工を行う現場に設計者が意図した構造物を築造するための情報伝達媒体」だと言えるでしょう。「図面」自体が情報伝達媒体であるが故に、それを現場でどう使うかによって、求められる「図面」の書き方が変わって来るのですね。
あいにく ニュータウンを作るような現場、道路工事の施工現場では、これまでと同様、印刷された設計図を片手に施工が行われています。我々設計者がどんなに CADソフトを使いこなし、色々な検討を行ったとしても、結局は二次元の設計図に載せられる情報量しか現場に伝えられないというのが現実な訳です。逆説的に考えると、現場の施工方法が変われば、それによって図面の書き方も変わると言う事ですね。
ここからやっと本題に入ります
では、現場での施工をどうやって変えれば良いのかをWebのニュースをボンヤリと眺めながら考えていたとき、たまたま拡張現実の記事を目にしたのです。
そこでアイデアが閃きました!
「今は紙の図面を見ながら施工を行っているが、拡張現実の技術を使って、仮想的な三次元設計図をiPhoneのようなデバイスのモニターを使い、現地の風景に重ねて投影することが出来れば便利じゃない?」
色々と妄想しながら、お昼休みの時間を使って作成したのがこのイメージ図。
こ の図面についてもう少し説明を付け加えると、iPhoneの様なGPS機能と電子コンパス機能を搭載したデバイスに、セカイカメラのようなARアプリを インストールする。そしてアプリケーション上には、座標系に乗っかった三次元の設計図データ(3Dオブジェクト)を読み込んでおくのですね。
そ して、施工を行う現地でそのアプリを立ち上げ、モニターを覗くと、カメラで撮影した風景の中に、セカイカメラのエアタグを表示させるように、その3Dオブジェクト)表示されるというわけです。
もちろん、自分の立つ位置や、カメラの方向を変えるとデバイスの 中で演算が行われ、自動的に3Dオブジェクトの見え方も変化する。
本格的に使用するには、 厳密な現地地形と3Dオブジェクトの位置合わせや、透過の処理など課題は残るでしょうが、利用方法としては以下のよ うな活用方法が考えられます。
・景観検討
橋梁やビルの設計時において、その出来上がりがどの様に見えるかを現地においてリアルタイム に検討出来る。現在はフォトモンタージュやCGを使って検討しているが、実際の風景のなかで見る位置、方向を変えながら確認出来るのは効果大だと思う。
・ 住宅販売などへの応用
建売住宅の物件は現地で実物を確認することができるが、たとえば更地を販売する際に、住宅の3Dモデルを 作っておいて、購入希望者は現地でモニターを覗きながら、建物が出来た時のイメージをよりリアルにイメージする。二階は無理かもしれないけど、一階部分な ら建物内部の画像も表示出来るでしょう。
・大規模な工事の施工管理として
厳密な精度が求められる日本の施工現場では使いにくい が、アジアやアフリカなどの開発途上国で道路を作る際には、モニター上で道路の線形、仕上がりの高さを確認しながら施工を行えば迅速な工事が出来ると思 う。
色々調べてみると 「バーチャル飛鳥京:複合現実感技術による遺跡の復元」など、実際に開発されたデバイスがあることも分かりました。技術としては昔からある拡張現実の活用が、iPhoneのようなデバイスの誕生によって、より身近になりもっと活用の幅が広がればなと思うのです。
電子書籍「あのプロジェクトチームはなぜ、いつも早く帰れるのか?」を発刊させて頂きました。執筆する際、最も力を入れた箇所、想いについては
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