思い出のかたち

公開日: : 最終更新日:2013/12/21 日記的な物

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ちょうど去年の年末、引越しの段取りや荷物の片付けでバタバタしていた頃の話。

僕の実家は長崎市、そこで大学を卒業し上京してきた。

長崎で生活する前、小学校を卒業する迄は島原半島の有家町という、人口1万人位の小さな町で育った。
その町は、平成の大合併で南島原市となり、その名前はもう残っていない。

当時、僕は二両編成の単線電車が走る鉄道のそばに住んでいた。毎朝、普賢岳、覚えている人も多いと思うが、あの火砕流・土石流で大きな被害を出した山を見ながら小学校に通っていた。

その小学校へ続く道をもう少し進んだ所に町で一番大きな神社がある。7月には夏祭りが開かれ、参道には沢山の夜店が並ぶ。毎年その日がくるの凄く楽しみにしていたものだ。
小学校の同級生にばったり出会ったのは、その神社に向かう道でのこと。

すれ違った瞬間は、お互い全く気がつかなかった。ふと振り返ると向こうも僕の方を振り返り、なにかを思い出そうとしている表情を浮かべていた。
その顔が笑顔に変わり、また驚いた顔に変わるのにそう時間はかからなかった。
多分、僕の方がずっと驚いた顔をしてたはずだ。なんせその子は僕の初恋の子だったから。

その子の名前はミキちゃん。
ミキちゃんはクラスの中でも頭が良く、とても優しい女の子だった。
ミキちゃんとは小学四年生の頃から同じ学習塾に通い始めて仲良くなった。
夏休みは、島原の田舎道を同じ塾に通っている仲間と石を蹴り、道端に落ちている木の枝を拾っては振り回し、皆でワイワイ騒ぎながら塾通いをした。
それは今でもいい思い出だ。

僕はどちらかと言うと弱虫で毎日泣きべそをかいていた。
バレンタインデーには周りの男子がチョコレートを貰っているのに、自分だけ貰えず半泣きになりながら学校から帰ったこともある。その日の塾帰りにこっそりとチョコを貰った時は、まさに天にも登る気持ちだったのを覚えている。
甘酸っぱい、あまりにも甘酸っぱい思い出だ。

小学校を卒業し、長崎に転校してからは特に連絡する事も無かったが、何かのきっかけで文通を始める事になった。高校一年生の頃だったね。

お互いの近況、ミキちゃんが入っている生徒会の話、勉強の話、部活の話、話題は広がり、毎月1往復する手紙のやりとりをとても楽しみにしていた。
高校卒業の年、お互いの志望校への合格を手紙で報告し合ったりもした。今から考えるとなんとものんびりした関係だった。

しかし、大学生活も二年目になる頃から、手紙の往復頻度は少なくなり、何時のまにか途切れてしまった。止めてしまったのは僕の方だったと思う。
その手紙の束は、今も押入れの思い出箱にしまわれている。

予想外の再会でドギマギしている僕にはお構いなしに、ミキちゃんは明るい声で話しかけてきた。
「こげんトコでなんばしよっと?」
標準語にすると
「こんな所で何してるの?」
まぁ、そんな事はどうでも良い。

2人で神社に向かう道を歩きながら、文通が終わった後の時間について沢山話をした。
結婚後、北欧の国で暮らしていたこと。四歳になる子供をとても大切にしている事。本当に幸せそうで、ひとり身の僕は少し嫉妬したほどだ。

話が一旦尽きたところで雨が降ってきた。
そばにあったバス停で雨宿りをしながら、また、ポツリポツリと昔話をする。
バス停のトタンの屋根に雨だれの音が響いている。

山に向かうバスが目の前に停まり 「じゃあ、私これに乗るから・・」
と一言だけ残し、ミキちゃんがバスに乗る。
そこで目が覚めた。

夢か、、引越しの荷物整理で久しぶりに広げた手紙の束を見たことで、記憶が揺さぶられたのだろう。
もう一度会って、色々話をしたい。 でもそれは叶わぬ願い、もうミキちゃんはこの世にいないから。

何時、どこで、何が原因で亡くなったかも分からない、母の知り合いの伝で訃報を知っただけだ。
12月の空気が漂う寝室のベッドの中、天井を眺めながら、もうどうやっても会えない事実に改めて気付かされ、これまで気づかないふりをしていた哀しみの感情が噴きだした。

ふと隣を見ると、妻と子どもが静かな寝息を立てている。可愛い寝顔、間抜けな寝顔。
大丈夫、まだこれから沢山話が出来る。沢山の事を伝えられる。
幸せなんだと心から思った。

目から溢れた鼻水が頬を伝うのを感じた。

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