仕事の報酬としてお金ではなく、時間をやり取りすれば、労働力の流動化が進み、仕事のきっかけが見つかったり、作業量の平準化が出来るのではないか。
前回の記事では、そんな妄想について書いてみました。
Time is MoneyからTime as Moneyへ – このまま一生β版
今回はその妄想をさらに膨らませてみたいと思います。
■運営者の目的
前回の記事では、ユーザー間のポイントの動き、時間取引の基本システムについて考えました。今回は、システム運営者とユーザー間の取引、ポイントの動きについて考えてみましょう。
これより、この時間の取引を行なうための仕組みを「システム」と呼びます。
運営者は、このシステムを公開する事で新しい仕事の流れを作ること。そして、それを通して社会構造を改革するというのが第一の目的です。
それと併せ、ユーザーにシステムを利用してもらうことで収益を得るビジネスモデルを作ることも重要な目的の一つです。
ここからは、運営者が「システムを提供することで、どのようにして利益を得るか?」そのビジネスモデルについて具体的に考えてみたいと思います。
■ポイント(時間)の販売
利益を得る方法として、最初に考えられるのは、ポイントの販売です。
ユーザーが仕事の報酬として譲渡するポイントをシステム側で販売し、そこから利益を得ます。これが最も直接的な収益方法でしょう。
ここで問題になるのが、ポイントの販売単価をどの程度に設定するかです。
ポイントの販売単価を、例えば1ポイント(1時間)1000円位に設定すると、そのポイントの価値は実際のアルバイトの時間単価と同程度になってしまいます。
これでは気軽に使えません。
10時間の仕事に対して、気軽に払える金額を2000円程度とするなら、1ポイントの値段は200円程度になります。
この程度の値段なら、ポイントを気軽に購入して、システムを使ってみようと思えるはずです。
▼システムからポイントを購入するイメージ図
▲1ポイントにつき一時間分の仕事を依頼できる。
■時間のインフレを防ぐ
ポイントの販売価格を低く設定すると、ユーザーは気軽にポイントを購入することが出来ます。
しかし、ポイントを販売しすぎる事でシステムの中にポイント(時間)が溢れるという問題が生じます。
そうなると、ポイントを稼ぐために誰かの仕事を手伝う行動へのモチベーションが無くなってしまします。
現実の世界でも、貨幣の流通量が増えすぎるインフレは問題となりますが、時間を仮装通貨として使用するシステムの中でも同じ配慮が必要です。
対策としては、システム全体で流通するポイントの総量に制限を設けること。
例えば
ポイント総量=User数×10時間
の様な制限を設け、それ以上はポイントを販売しない。このような運用上のルールが必要になるでしょう。
■税金を取る
システムの利用者の取引一回につき、ポイントの5%(とりあえず、現時点での消費税と同じ税率ににしておきます)をシステム側で徴収します。
このルールを設けることで、ユーザー間に流通するポイントの総量を徐々に減らし、その徴収したポイントを再販売する事で運営者の収益とします。
システム内のインフレを抑えつつポイントの販売を行うには、ユーザー間に流通するポイントを税金として吸い上げる仕組みが必要となるでしょう。
次に必要となるのは、User間の取引を促進させる仕組みです。
■ポイントに賞味期限を設ける
ポイントの販売価格を低く設定し、気軽に取引き出来る様にする事は先に説明しましたが、それを更に加速させるのがポイントに賞味期限を設ける仕組みです。
ポイントの購入後、また人から受け取ったポイントが三ヶ月間使われなかったら「消滅」するうような賞味期限があればどうでしょう。
もしこのようなルールを設ければ、ユーザーは溜まったポイントが無くなる前に積極的に使うよう動機づけられるでしょう。
その消滅したポイントは運営者側がストックし、システム全体のポイント総量が変わらないようにします。
預金口座のお金に賞味期限があり、使わないと無くなってしまうのは困りますが、比較的安価で購入したポイントであること。また人から受け取ったポイントも、自分の余剰時間を使って得たものであれば、ダメージは比較的軽いと考えられます。
■ポイントの買取
ポイントが消滅するくらいなら、他の人に売ってしまえ。そう考えるのは当然です。
システムでは、賞味期限間際のポイントを買い上げる仕組みを取り入れます。
販売価格が1ポイント200円とするなら、買取価格は仮に180円とします。
この差額が運営側の利益となります。
■いろいろ分かったこと
この記事を書きながら色々なことを学びました。
ここで提案した諸々の仕組みは「地域通貨」の仕組みとして既に色々な場所で運用されています。
たとえば、ある奉仕活動(時間の提供)に対して地域通貨を報酬として受け取り、それを地域内での決済に利用するのは「タイム・ダラー方式」と呼ばれるもので、1980年初頭にエドガー・カーン博士によって提案されています。日本では愛媛件関前町の「だんだん」が有名です。
また、地域通貨に賞味期限を設け、仮想通貨の流通を活性化させる仕組みも「おむすび通貨」として既に使われています。
運営者側がポイントを買い上げる仕組みについても記述しましたが、これは日本の法律(資金決済法)により規制されているようです。
この法律によると一度ポイントを購入したユーザーは、そのポイントの換金が出来ず、そのポイントはお金以外の「物」の購入にしか利用できません。
ですので、このようなシステムを立ち上げようとするなら、海外を拠点にしなければなりません。
■まとめ
今回の記事を書く過程で、これまで注目していなかった「地域通貨」について調べることが出来ました。
記事をまとめるにあたり「貨幣の価値」とそれを支える「信頼」について考えてみたいと思います。
円、ユーロ、ドルなど、国の中央銀行が発行する「法定通貨」に価値があるのは、その通貨に価値があると、国民が信じているからです。その信頼感はその国自体に対する信頼感にほかなりません。
アフリカのジンバブエで天文学的なインフレが生じ、紙幣が紙くず同然になってしまったのは、その紙幣、またその紙幣を発行している国の信用が失墜したためです。
「地域通貨」が価値を持ち、その地域で使えるのは、市町村や商店街という比較的狭いコミュニティーで培われていた、住民どうしの信頼関係が、その基盤としてあるからでしょう。
誰かに仕事をお願いする時、そこに必要なのも「信頼」です。大切な仕事を何処の誰だか分からない人には頼めません。
会社組織に属していれば、会社の看板が個人の代わりに信頼を支えてくれました。
担当者に問題があれば、そのツケは会社として対応してくれるでしょうし、上場しているような会社であれば、変な対応をされることは無いだろうという安心感もあります。
もし、ここで提案したシステムを構築し、利用者が自分のちょっとした時間で、誰かの仕事を手伝い、きちんとした成果を挙げる。
そんな仕組みが出来れば、これまでは「会社」「地域」という限られた環境でしか保証して貰えなかった個人の信頼感を広い世界に向けてアピール出来ます。
そんな環境が構築できれば、誰かが必要としているスキルさえ持っていれば、会社という緩やかな檻に囚われる必要のない、本当のノマドワーカーになれるのではと妄想するのです。
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Time is MoneyからTime as Moneyへ~その3(完結) – このまま一生β版
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